◎良導絡自律神経興奮性測定(ノイロメトリー)と良導絡電気針治療
「良導絡自律神経調整療法」は良導絡測定(ノイロメトリー)と良導絡電気針治療を合わせたものを言います。
良導絡測定は良導絡機器(ノイロメーター)を用い、医学的、統計学的に定められた両手足首の
測定点に12v200μA(マイクロアンペア)の非常に微弱な電気を流し、その電流値を中谷義雄医
博考案の特殊なノモグラフ(良導絡チャート)にプロットし被測定者の交感神経の状態(症候、
未病状態、不定愁訴の原因、心の状態)を把握するものです。
臨床的には良導絡チャートの改善を目的にします。
良導絡電気針治療では、測定した良導絡チャートを参考に、特殊に開発された針管(FR・MR針管)と良導絡機器(ノイロメーター)を使用し針先から微弱な電気を身体に流し治療を行います。
但し、良導絡チャートを改善させる方法は電気針に限らず、通常の鍼・灸治療、理学療法機器の使用、漢方薬や健康食品、その他の医療類似行為等様々です。
1.皮膚の導電性(電気抵抗)
ヒトの皮膚に弱い電気を流したとき、どこでも同じように電気は流れません。これは、皮膚の電気抵抗が、場所によって違っていることを意味しています。
皮膚以外の他の組織においては、個体差は有っても同一組織上では、どの部位においても同様の導電性(電気の流れ方)を示します。
このような「皮膚の導電性が部位によって異なる」という現象は、特異的なものとして、100年以上も前から世界の広い地域で観測されています。
皮膚の導電性は、部位のみではなく、〈生体〉では同一部位にあっても、時間や刺激によっても、変化することが解ってきました。このことは、ある種の生命活動の変化が、反射的に皮膚上に現れることを意味します。そして、ある中枢が深く関与していることも示唆しています。
中谷義雄氏(医博)は、1950年に、「皮膚の導電性と自律神経と経穴(ツボ)の相関」についての理論を発表、以後京都大学において研究を続行し、「良導絡理論」と「良導絡自律神経調整療法」の診断・治療体系を創立したのです。
※注−1
「導電性が高い」とは、『高い所は電気が流れ、そうでない所では電気は流れない』ことを意味しません。皮膚は、どこも電気が流れます。〈多く流れる所〉と〈流れかたが少ない所〉があるということです。多く流れることを「導電性が高い」といいます。
※注−2
導電性は、電気抵抗と表裏の関係にあります。
E(電圧)
I(電流)= ─────── 【オームの法則】
R(抵抗)
※電流と電気抵抗は反比例します。
※電気がよく流れるところは、「電気抵抗が減弱したところ」と言えます。
2.[良 導 点]
21Vの電圧(直流)で、直径1cm以下の小さな電極(陰極)を用い、皮膚上に弱い電流を流しますと、約1〜2cmおきに碁盤目の上に碁石を並べたようなかたちで、電気の流れやすい(導電性が高い)点が観測されます。
これらの点を、「電気が
良く」「流れる、
導かれる」「
点」の意で[良 導 点]と中谷は名付けました。
上半身では下半身に比べ、電気は良く流れ、良導点は多く出現します。
3.[反 応 良 導 点]
電圧を12Vに落し、同様に皮膚の導電性を観察しますと、21Vに比べ大幅に数は減少しますが、それでも鮮明な良導点を見いだすことが出来ます。
12Vで見られる良導点は、身体(内臓を含む)に異常が有るときにより鮮明に現れ、異常を呈する内臓や部位によって出現する場所が異なります。
また、身体のどこかに刺激を加えることによっても変動します。このように、身体の異常や刺激に反応して出現し変動する良導点を、特に[反応良導点]と呼んでいます。
「良導点」は、誰にでも共通して見られる[生理的現象]であり、「反応良導点」は、疾病や刺激の反射として現れる[病態生理的現象]であるといえます。
※注−3
(注−1)と同様に、『良導点では電気が流れ、良導点以外の所では電気が流れない』ことではありません。『良導点は、周囲に比べて特に良く電気が流れる点』になり特に反応良導点では周囲との差が大きくでます。
例えば、手や足などの鶏卵大ほどの皮膚で、平均40μA(マイクロアンペア)くらいの電流量を示す中で、70μA〜80μA流れるところが有れば、そこが「反応良導点」です。
同様に、顔面で平均的電流量が100μAのとき、140μAのところが「反応良導点」で、足の「反応良導点」が顔面の「非良導点」よりも電流量が少ないこともあります。
【図 1】
※注−4
身体の異常や刺激に反応して電流が良く流れる[反応良導点]があるならば、身体の異常や刺激に反応して電流が流れ難くなる[反応不良導点]も存在し
ます。
良導点(及び反応良導点)は、「ノイロメーター」という測定器によって測定探索いたします。内経1cmの湿性の陰極(−)導子を関導子とし、筒状・金属の陽極(+)を不関導子にします。付加電圧は通常12V、電流は直流、電流値の単位はマイクロアンペア(μA
− 1/100万A)です。
4.[良導点・反応良導点]と自律神経
中谷は、皮膚上の導電性の高い点、即ち良導点・反応良導点に一つの解釈を示しました。
良導点・反応良導点は、「局所的に交感神経の興奮している場所である」ということです。
中谷の実験によりますと、交感神経の興奮剤を筋注すると良導点は増加し、交感神経の抑制剤は、良導点を減少させます。副交感神経の興奮剤は良導点を減少させ、同抑制剤は良導点を増加させます。このことは、良導点が交感神経の興奮性と深く関与していることを証明しています。
山下等(山下九三夫 国立病院医療センター麻酔科)の研究では、吸入麻酔による自律神経中枢を抑制する全身麻酔下においては、良導点の電流量は著しく減少し、覚醒によって電流量も回復します。また、いろいろなレベルでの局所麻酔による交感神経ブロックでも、電流量に減少の傾向が見られます。
これらのことによっても、良導点が交感神経の興奮性と相関を有し、皮膚の導電性が自律神経の中枢によってコントロールされていることが考えられます。
良導点、特に反応良導点は、身体の状態が自律神経を介して皮膚上に反射した点であり、皮膚上の良導点の電流量(電流量の変動)を観測することにより、間接的に交感神経の興奮性を知ることが出来ます。
5.[経穴(ツボ)・経絡]と[良導点・良導絡]
良導点及び反応良導点、特に反応良導点は、中国の伝承医学の一つである「鍼灸」治療の基となる独特な病理観である、「経穴・経絡」の経穴(ツボ)の部位に、多く一致します。
言葉を替えますと、経穴(ツボ)は導電性が高い(皮膚の通電抵抗が減弱している)という特性を持っていると言えます。このことを中谷が世界で初めて証明したとして、国際的に高い評価を受けています。
ヒトの皮膚に点在する良導点を夜空に輝く星に例えますと、それらの星を特定の線で結ぶと星座になります。身体上に点在する良導点を、「経絡の走行」という特定の線で結んだものが「良導絡」です。
したがって、[良導絡]と[経絡]相似形をなしています。
古人が「経絡・経穴」という形態で捉えた生理・病理観は、〈「気血」が経絡をめぐり、経穴は気の出入りする門戸である。「気」は「衛」を司り、「血」は「営」を行う。〉という概念です。気は生命エネルギーの総称であり、血は血液の循環を意味すると解釈できます。
「衛」は防衛の「衛」であり、生体の自然調整機能(ホメオスターシス)や療能力と考えられ、自律神経の恒常性や免疫機能を含む治癒力と言い替えられます。
一つの例として、気温が低下すると、毛細血管は収縮し毛嚢は閉じて、体温の放散を防ぐという働きが、自然に無意識下に行われます。これらの生体の自然調整機能(ホメオスターシス)や療能力は、当然自律神経の重要な機能の一つであります。
また、「営」は栄養を補うことですが、血液の循環がこれに当たります。人体での血管の分布は、経絡の走り方とは異なります。血液の循環は自律神経の機能の重要な一つです。
古人は「血」が循環する経絡を、ダイレクトに血管の走行と考えたのではなく、血液の循環という自律神経の機能を、[経絡]という形で表現したのでありましょう。
「経絡」という形態と「気血・衛営」という観念は、共に「自律神経」という言葉がないまま、正に自律神経の機能そのものを表現しているのです。
「経絡」には、生理学・病理学だけではなく当時の中国(少なくとも2000年以前)の論理学・宗教・哲学・自然観が包含されています。
「良導絡」は、「経絡」の生理学・病理学的部分を、電気生理学と自律神経学の立場から表現し、同時に経絡を科学的に解明し証明したものといえます。
「良導絡=経絡」の変動を、皮膚の導電性(通電抵抗)を計ることで捉え、そのことによって、自律神経の変動やバランスを、間接的に知ることが出来るのです。
自律神経の興奮性(自律神経の機能の程度)を、皮膚の導電性(通電抵抗)に定性化し、電流量の測定によって定量化することに初めて成功した唯一の方法が「良導絡理論」と「良導絡自律神経調整療法」であります。
6.「良 導 絡」
前項(5)で述べたとおり、「良導絡」と「経絡」は相似型をなすものです。経絡では、独自の観念から自律神経を六臓(肺,心,脾,肝,腎 の五臓に心包を加えて)と六腑(小腸,三焦,大腸,膀胱,胆,胃)の12系に分類しています。
(経絡は、その他に前正中線を走行する「任脈」と後正中線を走る「督脈」のエキストラの2経を加えて計 114経あります)
良導絡も、経絡の観念を踏襲して六臓・六腑の12系に分類し、鮮明に出現する良導点(多くは経穴の部位と一致する)を経絡の走行に沿って体系づけています。
良導絡では、手を走行する良導絡に[H]を、足を走行するものに[F]の記号をつけて呼びます。
良導絡と経絡の相関は以下のとおりです。
H 良導絡 経 絡 |
F 良導絡 経 絡 |
H1 良導絡 肺 経 |
F1 良導絡 脾 経 |
H2 良導絡 心 包 経 |
F2 良導絡 肝 経 |
H3 良導絡 心 経 |
F3 良導絡 腎 経 |
H4 良導絡 小 腸 経 |
F4 良導絡 膀 胱 経 |
H5 良導絡 三 焦 経 |
F5 良導絡 胆 経 |
H6 良導絡 大 腸 経 |
F6 良導絡 胃 経 |
※注−5
良導絡でも、前正中線を走行する「VM良導絡−任脈」と後正中線を走る「HM良導絡−督脈」があります。しかし、自律神経の興奮性の測定に用いるのは、「正 経」と呼ばれる「H」及び「F」の良導絡です。
良導絡では、経絡との相関において、「H1 良導絡」を「肺良導絡」,「F6良導絡」を「胃良導絡」と呼ぶこともあります。
注意が肝要なのは、経絡や良導絡の頭に冠している「肺,肝,胃」等の文字が現在の解剖・生理学上の「肺臓,肝臓,胃」と同一のものではないことです。
「肝 経」の「肝」は、肝臓のみならず眼,筋肉,生殖器などを含む自律神経機能の一つの独特なパターンだと理解して下さい。「F2 良導絡=肝 経」の異常は、全てが短絡的に肝臓の異常と断定出来ないということです。筋肉痛や眼精疲労も「F2
良導絡=肝 経」の異常として現れます。勿論、肝臓の働きに異常があるケースでは、「F2 良導絡=肝 経」に変化が現れます。
※注−6
現実に「心 包」及び「三 焦」という臓器は存在しません。
良導絡では、「心 包」は「血管及び血液循環器能」と、「三 焦」は「淋巴管及び淋巴系の機能」だと解釈しています。また、「脾」は、「脾臓」よりも「膵臓を中心とする消化機能」に、「腎」は、「腎臓の泌尿機能」よりも「副腎を中心とする内分泌の働き」に重点を置いています。
※注−7
H5 良導絡(三焦経)とF5 良導絡(胆 経)は、古典経絡においては、この二経で[少陽]というグループを形成しています。他の10の良導絡=経絡が交感神経の興奮性に深く関与している中、この二経は副交感神経との関連を示唆する現象を見せ、特異な良導絡=経絡だといえます。
7.「良導絡の測定から治療等までの流れ」
基本的には良導絡チャートの作成から始めます。